贈与と遺言、どっちがよい?―一概には言えません

【はじめに】
「〇〇へ贈与を検討中だが他に方法はないか?」、「贈与と遺言どちらがよいか?」というご相談を受けることがあります。2つ目の「どちらがよい?」というのは、①財産の権利移転の目的を達成でき、かつ、後々のトラブルがないようにするためにはどちらかがよいか?という点と②税制上どちらが有利か?という点の概ね2つを含んだ質問である場合がほとんどです。総合的な観点からは、どちらがよいとは一概には言えず、相談者の年齢、贈与の相手、家族状況、財産状況、どちらに重点をおくか(トラブル防止か節税か)などその方の状況によります。
【贈与】
贈与には、生前贈与と死因贈与があります。順に説明いたします。
(1)生前贈与
生前贈与は、文字通り生前に財産を贈与することをいいます。遺言とは違い、贈与者と受贈者との契約です。書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができますが、履行の終わった部分については解除できません(民法第550条)。不動産を例にとると、引渡し、登記済み証の交付、移転登記がなされた場合(引渡し未了でも)は、履行が終わったと考えられます。
不動産の贈与には、贈与税、不動産取得税がかかり、また、所有権移転登記の際に納める登録免許税は、遺言(遺贈及び特定財産承継遺言)の場合より高くなります(5倍)。ただし、法定相続人以外への遺贈の場合は贈与と同じです。
[おしどり贈与]
20年以上の法律上の婚姻関係にある夫婦間で居住用不動産もしくは居住用不動産を取得するための資金の贈与について、一定の要件のもとで2,000万円を限度に控除できる制度があります。暦年贈与の基礎控除110万円と組み合わせれば、最大2,110万円までの贈与が非課税となります。
⇒夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除
[相続時精算課税制度]
贈与者が60歳以上で、贈与の相手が子や孫などの直系卑属(18歳以上)の場合は、相続時精算課税制度を活用できます。これは、贈与財産から相続時精算課税の基礎控除額と特別控除額を控除した残額に一定の税率を掛けて算出した金額の贈与税を納税し、贈与者が亡くなったときにその贈与財産と相続財産を合計した価額を基に相続税額を計算し、既に納付した贈与税額を控除するものです。令和6年1月より制度改正され、使い勝手がよくなったと言われています。
直系卑属に早めに財産を承継させることができ、特別控除額までは贈与税率ではなく、相続税率となることや基礎控除額については、相続財産に足し戻しが不要とされています。
⇒相続時精算課税の選択
(2)死因贈与
死因贈与は、贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与です(民法第554条)。死因贈与は、民法第554条により、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定が準用されるため、書面で契約を交わしていても、贈与者が生存中であれば原則として死因贈与契約を撤回することが可能です。したがって、生前贈与と違い、履行の終わった後、何かの事情で「やめとけばよかった」と後悔することは基本的にはありませんが、撤回が制限されるケースもあります。
[撤回が制限されるケース]
①負担付死因贈与の場合
→ 受贈者がすでに介護などの負担を履行している場合、撤回は認められないことがあります。
②裁判上の和解に基づく契約
→ 和解によって成立した死因贈与契約は、一方的な撤回ができないとされています。
③仮登記(2号仮登記)がされている場合(下記の始期付所有権移転仮登記をご覧ください。)
→ 契約の撤回は可能でも、仮登記の抹消には受贈者の協力が必要です。
[始期付所有権移転仮登記]
贈与の目的が不動産の場合、死因贈与契約に基づいて「始期付所有権移転仮登記」ができるため、受贈者の権利を事前に保全できます。死因贈与契約を公正証書により行い、始期付所有権移転仮登記の承諾文言を加えておくと、その仮登記申請手続きをする際、贈与者の承諾書及びその印鑑登録証明書の添付が不要になります。
《始期付所有権移転仮登記の承諾文言の例》
「甲及び乙は、本件土地について、乙のために始期付所有権移転仮登記をするものとする。甲は、乙が上記仮登記申請手続をすることを承諾した。」
不動産の死因贈与には、相続税(贈与税ではない)、不動産取得税がかかり、また、所有権移転登記の際に納める登録免許税は、遺言(遺贈及び特定財産承継遺言)の場合より高くなります(5倍)。
(3)贈与(生前・死因問わず)の留意点
<1>贈与契約書の取り交わし
贈与するときは、是非、贈与契約書を交わしておくことをお勧めします。理由は、次の通りです。
①トラブル防止
贈与契約当事者間の「言った・言わない」の争いを防ぎ、贈与の事実を明確に証明できるだけでなく、相続人間においてもトラブル防止につながります。
②不動産登記がスムーズ
所有権移転登記の際、贈与契約書が証明書類として使えます。
③税務調査対策
税務署に対して正当な贈与であることを証明でき、名義預金や定期贈与と誤認されるリスクを減らせます。
④公平な遺産分割
贈与は、遺産分割上、特別受益となることがありますが、生前贈与の内容が明確になるため、相続時の不公平感や争いを防げます。
<2>遺留分への配慮
贈与にあたり、持戻し免除の意思表示はできますが、「遺留分を破る」ことはできません。遺留分侵害額請求が必ずなされる訳ではありませんが、後々のトラブル防止のため、遺留分への配慮は必要です。
【遺言】
複数の推定相続人がいて、不動産や金融資産があるのなら、遺言で一括して財産を遺す相手、方法等を決めておくとよいでしょう。
不動産については、相続人以外への特定遺贈を除き、不動産取得税はかかりません。また、相続登記の際の登録免許税の税率は、相続人以外への遺贈を除き、贈与より低くなっています。
「贈与、遺言どちらがよいか?」は、最初に述べた通り、どちらがよいとは一概には言えず、相談者の年齢、贈与の相手、家族状況、財産状況、どちらに重点をおくか(トラブル防止か節税か)などその方の状況によります。
多額の資産があり、節税に重点を置きたい方は、相続税に詳しい税理士に相談するとよいでしょう。

