特定財産承継遺言ってどんな遺言ですか?

《特定財産承継遺言とは》
「甲不動産は、長女Aに相続させる」という具合に、特定の財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言を特定財産承継遺言といいます。特定財産承継遺言は、遺産分割方法の指定とされています。
<遺産分割方法の指定>
遺産分割方法の指定には、①遺産分割の方式を指定するものと②遺産分割により特定の財産を特定の相続人に取得させることを指定するものがあります。
《特定財産承継遺言の効果》
特定財産承継遺言は、遺産分割方法の指定のうち、上記②とされています。そのため、相続開始の時に直ちに当該特定の財産が当該相続人に相続により承継されます。その結果、上記例で長女Aは、他に共同相続人がいても単独で相続登記をすることができます。
なお、令和5年3月以前は、「遺贈する」とした場合は、長女Aと他の共同相続人全員または遺言執行者と共同で登記申請をしなければなりませんでしたが、法律改正により、令和5年4月1日から、遺贈により不動産を取得した相続人(受遺者=登記権利者)は、単独で所有権の移転の登記を申請することができるようになりました。令和5年4月1日より前に開始した相続により遺贈を受けた相続人(受遺者)についても同様です。
これに対し、相続人ではない者に不動産を特定遺贈した場合は、受遺者と他の共同相続人全員または遺言執行者と共同で登記申請をしなければなりません。
《遺言執行者の権限との関係》
特定財産承継遺言があるときは、遺言執行者は当該相続人のために以下のような対抗要件を備えるために必要な行為をすることができます。
<不動産>
当該相続人への相続登記ができます。
<動産>
目的財産の引渡しを受けることができます。
<預貯金債権>
①金融機関に承継の通知ができます(共同相続人の全員が通知したことになります)。
②対抗要件の具備ではありませんが、預貯金の払戻請求及び解約の申し入れができます。
※実際の遺言では、特定財産承継遺言であっても遺言執行者の権限を詳細に記載するのが通常です。
《特定財産承継遺言の承認・放棄》
遺贈と異なり、特定財産承継遺言による財産の承継は相続であることから、受益相続人が特定財産承継遺言を承認するかあるいは放棄するかは、相続自体を承認するかあるいは放棄するかと同義となります。
そのため、受益相続人は、当該特定財産承継遺言の全部又は一部のみを承認してその余の相続を放棄したり、逆に当該特定財産承継遺言の全部又は一部のみを放棄してその余の相続を承認したりすることはできません。
《(推定)相続人以外への財産承継の記載方法》
例えば、遺言で代襲相続人でない孫や長男の嫁に財産承継させたい場合は、「相続させる」ではなく、「遺贈する」と記載しますので、注意してください。