事実婚パートナーへの思いやり―様々な方法・準備

【事実婚パートナーとは】
夫婦別姓を選択したり、法律婚に縛られたくないとして、婚姻届けを出さないパートナー(夫婦)も増加してきました。事実婚とは、パートナー関係にある二人が婚姻の意思を持って共同生活を送っていますが、婚姻届けを出していない婚姻形態です。内縁を呼ばれることも多いです。
【事実婚パートナーへの財産承継等】
自分の死後、事実婚のパートナーがその生活に困らないように配慮する工夫・やり方に様々な方法があります。それぞれ自分たちの事情にあった準備を事前(生前に)にしておきたいものです。
1.贈与
生活費を渡すことは、事実婚パートナーであっても扶養義務がありますので、贈与とはなりませんが、扶養義務の範囲を超えて、多額の現金や土地・建物当の財産の所有権移転を行うと贈与にあたり、受贈者に贈与税が課せられることがあります。
<贈与税>
その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた金額が基礎控除額(110万円)を超えると贈与税の課税対象となり、申告が必要です。110万円以下の贈与であっても後々のことを考え、その都度贈与契約書を交わしておくとよいでしょう。
<「おしどり贈与」の対象外>
事実婚パートナー間では、いわゆるおしどり贈与の特例が使えないことを知っておく必要があります。これは、夫婦間で居住用不動産もしくは居住用不動産を取得するための資金の贈与について、2,000万円を限度に控除できる制度で、暦年贈与の基礎控除110万円と組み合わせれば、最大2,110万円までの贈与が非課税となります。この特例を受けるためには、法律上の婚姻関係にあることが要件の一つとなっているからです。
<不動産取得税・登録免許税>
おしどり贈与の特例の適用有無にかかわらず、不動産の贈与を受けた場合は不動産取得税や所有権移転登記の際に登録免許税が課税されます。
不動産取得税=固定資産税評価額 × 税率
(税率は、原則として土地・住宅用家屋は3%、それ以外の建物は4%)
登録免許税=固定資産税評価額×2.0%
(ちなみに相続または相続人への遺贈の場合、税率は0.4%です)
2.死因贈与
「死因贈与」とは、贈与をする人が死亡することを条件として、財産を相手に無償で与える契約です。贈与者と受贈者の双方の合意が必要である点は贈与と同じですが、効力が発生するのは贈与者が死亡した時です。
死因贈与の場合、不動産について生前に「始期付所有権移転仮登記」を行うことで、贈与者の死後、受贈者が単独で本登記を行うことが可能となり、権利の保全が図れるというメリットがあります。
<相続税>
名前に「贈与」とありますが、財産が移転するのは死亡時であるため、相続税が課税されることがあります。遺言による「遺贈」と同様の扱いになります。さらに、法律婚でないため相続税額に対して2割加算されることになります。
<不動産取得税・登録免許税>
不動産の場合、贈与と同様に不動産取得税と登録免許税が課税されます。
3.遺贈
遺言による財産承継です。死因贈与に似ていますが、財産を残す人(遺言者)が一方的に行う「単独行為」(遺言による)であり、財産を受け取るパートナー(受遺者)の事前の同意は不要です。
<相続税>
相続税が課税されることがあります。また、死因贈与同様、相続税額に2割加算されます。
<不動産取得税・登録免許税>
不動産の場合、贈与や死因贈与と同様に不動産取得税と登録免許税が課税されます。ただし、不動産取得税については特定遺贈の場合は課税されますが、包括遺贈にすれば課税対象外です。
[包括遺贈の文例]
第●条 遺言者は、遺言者の有する次の財産を含む全財産および全債務を、遺言者のパートナーである●●●●(昭和●年●月●日生。住所 遺言者と同じ)に包括して遺贈する。 (財産の表示) 以下省略 |
4.遺族年金
遺族年金は、被保険者または被保険者であった方が亡くなったときに、その方によって生計を維持されていた遺族に支給される年金です。法律上の配偶者だけでなく、事実婚関係にあった内縁の配偶者にも支給される場合があります。 ただし、内縁の配偶者が遺族年金を受け取るには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
(1)死亡した方と生計を維持していたこと
(2)事実婚関係にあったこと
(3)受給要件を満たすこと
住民票の世帯主との関係欄に「妻(未届)」「夫(未届)」と記載があれば(1)(2)の証明となりやすいでしょう。
5.生命保険金
受取人を事実婚パートナーにしておきます。受取人が「相続人」など他の名義になっていないか保険証券を確認しておきましょう。
なお、生命保険金(死亡保険金)は、相続財産とはなりません。
【遺留分に留意】
贈与(死因贈与を含みます)にせよ、遺贈にせよ、遺留分のある推定相続人がいる場合は遺留分侵害額請求には留意する必要があります。遺留分侵害額請求権を行使されると事実婚パートナーにとって時間的、金銭的、精神的負担が大きくなるからです。