遺言がいいですか?家族信託がいいですか?

《目的次第です》

 家族信託がテレビや新聞、ネットなどで取り上げられることが多くなったこともあり、無料相談会で、遺言などの相談に来られた方から時々質問されるようになりました。これは、相談者の目的(達成したいことは何か)次第ということになります。

《(家族)信託とは》

 たとえば、親(委託者兼受益者)の不動産や預貯金を信託財産として、長男(受託者)に信託し、親の生存中は、長男に信託財産の管理・運用をしてもらって、その中から生活費・医療費等の給付を受け、親が死亡した時に、信託を終了し、残余財産を長男やその親族に帰属させる、というようなスキームのことです。 

《遺言と信託の違い》

 遺言は、遺言者の死亡により、その財産が受遺者(特定財産承継遺言による受益者を含む)に承継されるのに対し、信託は、本人の生前でも、死亡時でも、さらに本人の死亡後の財産承継も決めることが出来ます。

《遺言にはない(できない)が、家族信託でできること(例)》

(1)財産の管理・活用

 親が自宅の他に賃貸物件を所有しているときは、親が認知症になっても長男が賃貸物件の管理・活用(建替え等)ができます。
 また、親が認知症となり、施設へ入居する際、費用捻出のため、自宅を売却処分することが可能です(後見制度でも一定の要件・手続きの下で出来ます)。
 遺言は、そもそも遺言者の生存中に財産管理等を行うことはありません。

(2)後継ぎ遺贈(後継ぎ遺贈型の受益者連続信託)

 後継ぎ遺贈とは、遺言の効力が発生した後に受遺者が死亡しても、その受遺者の相続人に遺贈の目的物を相続させるのではなく、被相続人の指定する者に遺贈の目的物を与えるという遺贈をいいます。
 後継ぎ遺贈は、実質上、最初の受遺者の財産処分権を制限することになり、無効とする見解が支配的です。
 家族信託では、信託法により、たとえば、本人死亡後に自宅を後妻に利用させ(後妻との間に子なし)、後妻の死後は、先妻との間の子(財産帰属権利者)に相続させたい場合などに活用出来ます

 上記のような目的・ニーズがあるなら、(家族)信託を検討するとよいと思います。 

《家族信託の留意点》

 家族信託の利用にあたっては、知っておきたい留意点がいくつかあります。

(1)信託制度の理解

 信託制度は複雑で難解な点も多く、特に親(委託者兼受益者)は信託制度をよく理解した上で信託契約を締結する必要があります。

(2)信託契約時の意思能力

 高齢の親が締結した信託契約の効力が後に問題となることがあります。本人の真意や意思能力を慎重に確認するため、信託契約は公正証書にした方がよいでしょう。

(3)推定相続人の理解・合意

 信託設計をする上で、受益者や権利帰属者となる者以外の推定相続人の理解が必要です。家族会議を開催するなど、後々のトラブル防止のため家族でよく話し合った方がよいでしょう。

(4)遺留分への配慮

 上記(3)とも重複しますが、家族信託による受益権や帰属財産も遺留分侵害額請求の対象(原因)となります。

(5)他の制度活用の検討

 遺言や任意後見、法定後見など他の制度の活用や併用が出来ないか、目的や将来の不安に照らし、よく検討してみましょう。

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