こんな遺言書で本当に相続手続きができるの?

【無料相談会で見せられた遺言書】
「のちのち迷惑を掛けることになるのでわずかです。相続させる長男にすべておまかせします。 平成●年●月●日 署名・押印」(家庭裁判所の検認済み)
上記は、以前、実際にご相談を受けた遺言です。(個人情報保護の観点から一部アレンジ。以下の説明も同様。)
一見すると、このような遺言で相続登記や預貯金口座の解約・払戻し等の相続手続きが出来るのだろうか、と疑問を持つような遺言書です。しかも、「長男にすべておまかせします」部分の筆跡が他と違っているように感じるものでした。果たして、このような遺言で相続手続きが出来るのでしょうか?
相談者は長女で、一年以上前に亡き父親(遺言者)と一緒に暮らしていた長男からこの遺言書及び検認書のコピーが郵送されてきたのだそうです。相談者兄妹は事情があって幼いときに別々の施設に預けられ、それ以来お互いに音信不通となっており、長男が父親と同居していることすら知らなかったそうです。
【遺留分侵害額の請求】
相談者は、遺言者(被相続人)の子であり、遺留分がありますが、遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅します(民法第1048条)。もう少し早く相談してくれたらよかったのですが・・・。
【遺言書の形式的要件その他】
実は、この遺言で相続手続きは済んでしまっていました。
それでは、なぜ法務局等はこの遺言を有効と認めたのでしょうか?上記の遺言は、自筆証書遺言であり、民法第968条によれば、「自筆証書遺言によって遺言ををするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自筆し、これに印を押さなければならない。」とされています。なるほど、上記の遺言は、この形式的要件は満たしています。では、次の点はどうでしょうか?
①受遺者または特定財産承継遺言の相続人の氏名・生年月日の記載がない。
②承継させる遺産の範囲が特定されているのか。
③「おまかせします」は遺産承継の意思表示と言えるのか。
おそらく、①は戸籍情報から「長男」で遺産承継者は特定される、②は包括遺贈、③は、「おまかせします」の前に「相続させる長男に」との文言があることから問題ない、と判断されたのではないかと推測出来ます。
【裁判になったら】
それでは、上記遺言書の有効性を巡って裁判で争われた場合はどうでしょうか?
「長男にすべておまかせします」部分の筆跡が他と違っているように感じるものでしたので、遺言者本人が本人の意思で書いたものか、という点が争点の一つになったでしょう。その他の箇所や様々な事情が総合的に考慮されると、違う結論になった可能性もあると思われます。
遺言書は、形式的要件を整えるだけでは、のちのち紛争になる恐れがあります。円満な相続にするためには、家族構成、財産の種類・金額、遺留分等さまざま事情を考慮して隙のない遺言書にしなければなりません。是非、専門家にご相談ください。
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