遺言公正証書が電子化されるって本当?- 署名押印から電子サインへ

 令和6年7月のブログ「スマホで遺言できるようになる?」で遺言公正証書の電子化について、同8月のブログ「公正証書遺言はWeb会議でできるようになる?」で遺言公正証書のリモート方式について触れました。この2つは、改正公証人法の2本柱ですがその後、本年12月の施行に向けて具体的な内容が固まってきていますので、今回は、そのうち遺言公正証書の電子化について説明したいと思います。
 なお、電子化及びリモート方式は、遺言公正証書のみならず、公正証書全般が対象です。 

【遺言公正証書の電子化】
 これまで紙の文書として作成・保管していた遺言公正証書の原本を改正公証人施行後は、原則として電磁的記録で作成し保管することになります。遺言公正証書原本を従来どおり書面で作成・保管するのは、電磁的記録で作成することが困難な場合に限られます。困難な場合としては、成年被後見人の遺言公正証書が挙げられます。書面で公正証書原本が作成されるのは例外的な場合であり、本改正後は遺言公正証書を含むほとんど全ての公正証書原本が電磁的記録として作成されることになります。日本公証人連合会では、電子文書の形式 として広く利用されているPDF形式で公正証書原本を作成することにしているそうです。 

【署名押印から電子サインへ】
 現在は、公証役場において遺言公正証書作成の最終段階で、遺言者、証人2名、公証人が公正証書原本への署名押印をしていますが、これが電磁的な措置に変わります。 署名押印は、有体物である紙に行うことを前提と する行為であり、電磁的記録に署名押印はできないからです。
 従来の署名押印 に代わる措置として、電子公正証書に電子サインを行います。電子サインとは、 公証人のパソコンの画面又は公証人のパソコンに接続されたペンタブレットにタッチペンで氏名を記載し、これを公正証書原本の所定の部分に画像として記録するものです。各種契約の際に、タッチペンでタブレットにサインを求められることがありますが、それと似たようなイメージです。
 また、公証人は署名押印に代わる措置として、 電子サインをした上、日本政府認証局発行の官職証明書を用いて電子署名を行うことになります。 

正本・謄本はどうなる】
 遺言公正証書作成後、公証人は、遺言者へ紙正本、紙謄本或いは電子正本、電子謄本を交付することになりますが、紙正本、紙謄本の交付については、現在と変わりません。電子正本、電子謄本については、公正証書の完成後、公証人が完成した公正証書データを使用して電子正本、電子謄本用のPDFファイルを作成し、これに電子署名をして完成させた上、CD–Rに焼き付けるなどして交付することを予定しているようです。
<偽造・改ざん対策>
 電子正本・電子謄本については、これを PDFファイルの閲覧ソフトとして一般的に使われ ているAdobe社のAcrobat Readerに読み込め ば、認証文書に付された公証人の電子署名の有効性及び電子署名後の改ざんの有無が確認できるようになる予定です。

【遺言執行時】
 紙正本、紙謄本による執行手続きは現在と変わらないと思いますが、電子正本・電子謄本については、法務局(相続登記)や金融機関(預貯金など)側の環境整備が必要になると思われます。

従来と変更のない点】
 上記に述べたこと以外、つまり遺言公正証書の事前準備から当日の読み聞かせまでの流れは、改正前後で基本的に変わりません。

①事前準備
 遺言者側から公証人に作成を希望する公正証書の内容や必要な資料を提供して公正証書の作成を申し込み、 証人において公正証書の案文を作成して遺言者側に提示し、公証人と遺言者側とのやりとりの中で必要に応じてこれを修正して最終的に案文を確定し、公正証書の作成日時を決めるなど。

②本人確認
 公正証書の作成当日ですが、列席者(遺言者、証人2名)と公証人とがそろったところで、公証人が列席者(遺言者、証人2名)の本人確認や遺言者の意思確認等を行います。

③意思確認と遺言公証書証書案の記載内容が正確であることの確認
 本人確認等が終わると、公証人は、事前のやりとりで確定し、当日、遺言者の意思に基づくことを確認した公正証書の案文を列席者(遺言者、証人2名)に読み聞かせ、 又は列席者(遺言者、証人2名)に文面を閲覧させるなどの方法で、そ の内容が正確に記載されていることについての確認を求めます。
 本改正前は、公証人が公正証書の原本となる紙に記載された文面を公証人が列席者(遺言者、証人2名)に読み聞かせ、 同時に、同じ文面を印刷した紙を列席者に渡して 閲覧してもらうのが一般的であったと思います。 改正後は、公証人は、MicrosoftのWordファイルとして作成された遺言公正証書案を公証人のパソコン画面に表示させ、これを列席者(遺言者、証人2名)に読み聞かせます。列席者(遺言者、証人2名)には、 Wordファイルをプリントアウトした紙を配付し、 公証人の読上げの際に、その紙を見て内容を確認することを予定しているようです。

④電子サイン[ここが今までと違います]
 現在は、内容に間違いがなければ、最後に列席者(遺言者、証人2名)が遺言公正証書原本に署名押印しますが、改正後は、上記に述べたように電子サインとなります。公証人が遺言者、証人の順に電子サインをするパソコンやタッチペンを廻していきます。
 

【改正公証人法の施行日】
 本改正は、令和7年12月13 日までに施行されることとなっていますが、施行された後、全国一斉に電子公正証書に移行することになるのか、段階的に移行することになるのかについては現時点は未定です。

相続・遺言・終活の無料相談会 6月 ユニコムプラザ ボーノ相模大野 | さがみはら南区 | タウンニュース

「家族に感謝される遺言書とは?」「自宅が祖父名義のまま、どうすれば?」「おひとり様で心配」などの疑問・心配・要望に応える相談会が6月1日(日)、6日(金)、22…

シェアする