専門家に支払う遺言原案作成・遺言執行業務の報酬は高い?

 市役所や行政書士会が行う無料相談会などで、ときどき遺言業務の報酬についてご相談を受けることがあります。先日も、ある金融機関に遺言業務を依頼しているが、報酬額について妥当なのか見てほしい、というご相談を受けました。 報酬が妥当かどうかは、業務・サービス等の内容によりますし、また、他の事業者の報酬等について言及することは営業妨害にもなりかねないことから、他の事業者のサイトを見て比較検討してみてはどうですか、という回答にとどめました。
 とはいえ、報酬を支払う側にとっては、はやり価格は気になるところでしょう。そこで、いくつかの金融機関(主に信託銀行)の遺言業務の内容や価格についてネット等で調べてみました。

【金融機関の遺言業務】
 金融機関の提供する業務・サービスは、金融機関によって異なりますが、主に次のような内容です。
 なお、財産行為に限定されており、遺言認知などの身分行為に関する事項や遺言による廃除などは引き受けていないようです。

 (1)遺言原案作成
①事前相談、コンサルティング
②遺言原案作成と公証役場との調整
③証人の引き受け
 通常、金融機関の職員が証人を引き受けているようです。
④公正証書遺言の作成
 公正証書遺言の一択で、自筆証書遺言は法務局の保管制度を利用したものも含め原則として、引受けていないようです。
(2)遺言公正証書の保管
(3)遺言執行業務
①相続開始の通知
②遺言書開示と遺言執行者への就任
③遺産の調査・相続財産目録の作成・交付
④相続税等の資金手当てのアドバイス
⑤相続財産の配分
⑥遺言執行終了の報告

「遺言信託」:
 金融機関は、上記の一連のサービスを遺言信託と呼んでいるようですが、遺言で信託を設定する遺言による信託とは全く違いますので、混同しないようご注意ください。

【金融機関の遺言業務の報酬】
 金融機関の行う遺言業務の報酬は、次のような特徴があります。
(1)2つのタイプが用意されている。
 遺言者の経済事情等に応じて、遺言作成時に多めに支払い、遺言執行時は支払いを少なめに抑えるプランとその逆のプランが用意されているところが多いようです。
(2)相続財産額の区分に応じて報酬額率が異なり(逓減方式)、それらを合計して報酬額を算出する。
(3)年間5~6千円の遺言書保管料を徴収する
(4)報酬算定に際して、不動産は主に相続税評価額を基準としているようです。
(5)遺言の変更手数料は、55,000円とほぼ横並び
※どの金融機関も公証役場手数料、登記に係る報酬・費用、戸籍謄本の取り寄せ費用などの実費は、別途掛かります。 

【行政書士の遺言業務】
 行政書士の行う遺言業務も上記の金融機関のそれと似ていますが、自筆証書遺言や遺言認知などの身分行為に関する遺言も引き受けるところが多いです(事務所により異なります)。
 なお、不動産の相続登記は司法書士に依頼し、相続税の申告手続きは税理士に繋ぎます。 

【行政書士の遺言業務の報酬】
 報酬は、事務所により、また、サービス内容や難易度等により、千差万別です。他の先生方にお聞きしたり、ネット等で調査したところ、以下のような感じではないでしょうか。

 遺言原案作成:5万円~50万円くらい
 遺言執行業務:相続財産(債務を控除しない)の1~3% または逓減方式
 最低執行報酬額:30万円~150万円
 遺言書保管料:徴収しない事務所が多いような気がします
 ※公証役場の手数料や実費等は別途掛かります。

 なお、日本行政書士会連合会では、5年に一度、報酬額統計を公表していますので参考にされるのもよいでしょう。

【まとめ】
 金融機関にしろ、行政書士にしろ、その他の士業にしろ、業務内容と報酬は実に様々です。ただ、一定の財産がある場合、相続で争いがないよう専門家の視点で十分に検討された遺言をつくり、それに従って安心、確実に遺産が承継されるのであれば、相応の対価を支払うのもやむを得ないのではないかという気もします。当事務所も価格はもちろん大事ですが、”安心”、”確実”が最も大切だと考えています。最終的には、業務・サービスの内容・範囲と金額、実費等をよく確認し、納得の上で決められればよいと思います。

シェアする