戸籍の一部が戦災で焼失-法定相続情報証明制度は利用できない?

1.法定相続情報証明制度とは
相続が発生すると、預貯金の解約や不動産の相続登記など、さまざまな相続手続で被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本や除籍謄本などを提出する必要があります。そのため、相続人の数や相続財産が多い場合には、戸籍一式を何度も提出することが負担となります。そこで利用できるのが「法定相続情報証明制度」です。この制度では、相続人が戸除籍謄本等と法定相続情報一覧図を法務局に提出し、登記官がその内容を確認した上で、認証文を付した法定相続情報一覧図の写しを無料で交付します。この写しを利用することで、相続登記、預貯金の払戻し、相続税の申告など、一定の相続手続で戸籍の束の提出を省略することができます。
2.被相続人の戸籍は出生から死亡まで必要
法定相続情報証明制度を利用するためには、原則として、被相続人の出生から死亡までの戸除籍謄本等を収集する必要があります。これは、被相続人に子がいるか、婚姻や離婚をしているか、養子縁組や認知があるかなどを確認し、法定相続人を正確に確定するためです。
法務局も、被相続人の「出生から亡くなるまでの戸除籍謄本」が必要書類であることを案内しています。また、法定相続情報証明制度は、提出された戸除籍謄本等の記載に基づいて法定相続人を明らかにする制度です。そのため、被相続人の戸籍に空白期間がある場合には注意が必要です。「古い戸籍だから取得できなくても問題ない」というわけではなく、なぜ戸籍が取得できないのか、残っている戸籍だけで相続関係を確認できるのかなどを検討する必要があります。
3.戦災で戸籍の一部が消失しているときは
戦前・戦中の戸籍については、空襲などによる戦災によって戸籍簿や除籍簿が焼失し、現在でも取得できないケースがあります。このような場合には、まず本籍地の市区町村に、該当する戸籍が戦災によって焼失しているのか、再製されていないのかを確認することが重要です。
戸籍が実際に焼失している場合には、市区町村から「戦災により戸籍が焼失しているため、戸籍謄本等を交付することができない」旨の証明書が発行されることがあります。ただし、ここで注意したいのは、戦災焼失証明書があれば、必ず法定相続情報証明制度を利用できる、とは一概にいえないことです。法定相続情報証明制度は、戸除籍謄本等の記載に基づいて相続関係を確認する制度です。そのため、焼失した戸籍の内容が分からず、残存する戸籍だけでは相続人の範囲を確認できない場合には、制度の利用が難しくなる可能性があります。法務局も、必要書類を不足なくそろえ、正しい法定相続情報一覧図を提出する必要があると案内しています。
したがって、戦災焼失が判明した場合には、「焼失証明書があるから大丈夫」と自己判断するのではなく、残っている戸籍を確認した上で、申出先となる法務局に相談することが大切です。
4.戦災で幼年期以前の戸籍が消失している場合
では、被相続人の出生から死亡までの戸籍を調べたところ、例えば「3歳までの戸籍だけが戦災で焼失している」というケースはどうでしょうか。
この場合、必ずしも「出生まで戸籍がつながらないから、法定相続情報証明制度は利用できない」と単純に判断できるわけではありません。例えば、3歳以降の戸籍が連続して残っており、その後の戸籍によって婚姻、子の出生、養子縁組、認知などの身分関係が確認でき、相続人の範囲を十分に確認できるのであれば、戦災によって一部の戸籍が存在しない事情を説明した上で、法務局に相談する余地があります。
一方、焼失した戸籍の中に、後の戸籍からは確認できない身分関係が記載されていた可能性があり、残存する戸籍だけでは相続人の範囲を確定できない場合には、より慎重な対応が必要です。重要なのは、「何歳までの戸籍が焼失しているか」だけではなく、残っている戸籍によって法定相続人を確認できるかどうかという点です。そのため、幼年期の戸籍だけが戦災で焼失しているケースでは、戦災焼失証明書と残存する戸籍をそろえ、具体的な相続関係を示した上で、法務局に事前確認することをおすすめします。

5.成人してからの戸籍も一部焼失している場合
これに対して、被相続人が成人してからの戸籍の一部が戦災によって焼失している場合には、より注意が必要です。例えば、被相続人が20歳代のときの戸籍が焼失しており、その戸籍の前後に婚姻や子の出生などの身分関係が存在する可能性がある場合、残っている戸籍だけでは相続人の範囲を確定できないことがあります。
特に、焼失した期間に婚姻、離婚、認知、養子縁組、子の出生などがあった可能性がある場合には、その戸籍が存在しないことによって、法定相続人を確認するための重要な情報が欠けてしまいます。
したがって、「戦災焼失証明書があるから法定相続情報一覧図を作成できる」とは考えず、焼失した戸籍の時期と、その戸籍によって確認できるはずだった身分関係を具体的に検討することが必要です。
なお、法定相続情報証明制度が利用できない場合でも、相続手続そのものができなくなるわけではありません。法定相続情報証明制度は、戸除籍謄本等の束に代わる選択肢を提供する制度であり、制度を利用せずに通常の戸籍等を用いて相続手続を行うこともできます。
6.困ったときは行政書士にご相談を
戦災による戸籍の焼失は、現在ではそれほど頻繁に遭遇する問題ではありません。しかし、古い相続関係を調べていると、戦災や火災などによって、必要な戸籍が取得できないケースがあります。このような場合には、まず市区町村に戸籍の保存状況を確認し、焼失している場合にはその証明書を取得します。その上で、残っている戸籍を時系列に整理し、どこまで相続関係を確認できるのかを検討することが重要です。
法定相続情報証明制度については、戸籍が一部欠けているからといって、最初から利用を諦める必要もありません。一方で、戦災焼失証明書があることだけを理由に、必ず利用できると判断するのも適切ではありません。個々の戸籍の状況によって取扱いが異なるため、申出前に法務局へ確認することが安全です。
戸籍の収集から相続人の調査、法定相続情報一覧図の作成、法務局への申出まで、相続手続で戸籍についてお困りの場合は、お近くの行政書士にご相談ください。
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