「不動産の保有を否認する!」ってどういうこと?

1.福祉事務所から受給者宛てに突然手紙が
「あなた(山田太郎さん)が保有する次の不動産についてはその保有を否認し、処分指導とします。ついては、速やかに処分してください。以下省略。」
生活保護を受給している方のもとに、ある日、福祉事務所から「あなたが不動産を所有していることが判明しました」といった内容の手紙が届くことがあります。「私はそんな不動産を持っているつもりはありません」「亡くなった親の不動産のことだと思うけれど、まだ遺産分割もしていないのに……」と、戸惑われる方も少なくありません。
生活保護では、生活に利用できる資産は、原則として生活のために活用することが求められます。そのため、土地や建物などの不動産を保有している場合には、その不動産を保有したまま生活保護を受けることができるのか、処分して生活費に充てるべきなのかが検討されます。
ここでいう「不動産の保有否認」とは、生活保護を受けている方について、その不動産を生活保護上「保有してよい資産」として認めない、という意味で使われる実務上の言葉です。したがって、「不動産を所有する権利そのものがなくなる」という意味ではありません。実際に、売却が難しいなどの事情から、資産を保有したまま生活保護が適用され、その後、売却時に保護費の返還を求めるという取扱いもあります。
2.生活保護法第63条とは?
では、なぜ福祉事務所からこのような通知が届くのでしょうか。そのポイントとなるのが、生活保護法第63条です。同条は、「被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず保護を受けたとき」に、保護に要した費用について、保護の実施機関が定める額を返還しなければならないと定めています。
例えば、生活保護を受けている方が、売却すれば相当な金額になる不動産を所有しているものの、すぐには売却できないなどの事情から生活保護を受給していたとします。その後、その不動産を売却して現金を受け取った場合、過去に支給された生活保護費について、第63条に基づく返還が問題となることがあります。
つまり、「保有否認」とされたからといって、直ちに「生活保護が打ち切られる」という意味ではありません。むしろ、現在の生活状況を考慮して保護を継続しながら、将来、不動産を処分して得た金銭について、それまでに支給した保護費の返還を求めるという形で対応される場合があります。
3.上記の保護受給者は相続により不動産を共有していることが判明(ただし、遺産分割未了)
ここで、少し複雑なケースを考えてみましょう。
生活保護を受給しているAさんについて、福祉事務所が不動産の登記を調査したところ、亡くなった父親名義の土地・建物について、Aさんが相続人の一人となっていることが判明しました。しかし、相続人の間では、まだ遺産分割協議がまとまっていません。
このような場合、「遺産分割が終わっていないのだから、Aさんは不動産を所有していないのでは?」と思われるかもしれません。しかし、相続が開始すると、遺産は原則として相続人の間で法定相続分に応じた共有状態となります。法務省も、相続が発生すると、原則として遺産は法定相続分の割合で相続人らが共有することになると説明しています。
したがって、遺産分割がまだ終わっていないからといって、相続人がその不動産について何の権利も持っていない、ということにはなりません。実際、自治体の生活保護実務においても、遺産分割未了の相続不動産について、被保護者が共有持分を有していることを前提として、第63条による費用返還との関係を整理する事例が見られます。

4.遺産分割未了でも法定相続割合で相続登記は可能
では、遺産分割がまとまっていない場合、相続登記はできないのでしょうか。
結論からいうと、遺産分割協議が成立していなくても、法定相続分による相続登記をすることは可能です。
例えば、父親が亡くなり、相続人が子ども3人である場合、遺産分割協議が成立していなければ、原則として各相続人が3分の1ずつの法定相続分を有する共有状態になります。この法定相続分に応じて相続登記をすることができます。法務局も「法定相続編」として、法定相続分による相続登記の手続を案内しています。 →あなたと家族をつなぐ相続登記(法定相続編)
もっとも、相続登記をしたからといって、遺産分割協議が不要になるわけではありません。その後、相続人全員で協議がまとまれば、その内容に従って改めて登記をすることになります。
また、令和6年4月1日から相続登記が義務化されており、相続によって不動産の所有権を取得したことを知った相続人は、原則として3年以内に相続登記を申請する義務があります。遺産分割が長引いている場合には、「相続人申告登記」という制度を利用して、相続登記の申請義務を簡易に履行することもできます。
生活保護を受給している方の場合には、単に「登記をどうするか」だけでなく、相続不動産の保有・処分と生活保護法第63条による費用返還との関係も考える必要があります。そのため、福祉事務所から通知が届いた場合には、放置せず、まず現在の相続関係や不動産の状況を整理することが重要です。
5.困った時は行政書士にご相談を
「生活保護を受給しているのに、親の不動産を相続していたことが分かった」「遺産分割が終わっていないのに、不動産の保有について福祉事務所から通知が届いた」――このようなケースでは、生活保護制度と相続・不動産の問題が複雑に絡み合います。
まずは、誰が相続人なのか、対象となる不動産は何なのか、現在の登記名義は誰なのか、遺産分割協議はどこまで進んでいるのか、といった点を一つずつ確認する必要があります。
行政書士は、戸籍の収集や相続関係の整理、遺産分割協議書の作成、相続手続に必要な書類の準備などをサポートすることができます。また、相続登記そのものについては司法書士の業務となりますので、必要に応じて司法書士等の専門家と連携しながら手続きを進めることも大切です。
福祉事務所から届いた通知を「よく分からないから」とそのままにしてしまうと、後になって保護費の返還や不動産の処分など、より大きな問題になる可能性があります。
「不動産の保有を否認する」と書かれていて、どう対応したらよいのか分からない――。そんなときは、早めに専門家へご相談ください。
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