相続における寄与分とは―特別受益の逆バージョン

【寄与分とは】

 相続人の中に、被相続人の家業である商店経営や農業などに従事したり、被相続人の献身的な介護に努めるなど、被相続人の財産の維持または増加に特別の貢献をした人がいる場合に、他の相続人との公平を図るために認められた制度です。いわば、特別受益の逆バージョンと言えます。

【寄与分の類型】
 寄与の態様はさまざまですが、一般的に次の3つに分類されます。

(1)家業従事タイプ
 被相続人である親の家業である農業や商工業に共に従事し、財産の維持または増加に貢献した場合です。無報酬であることが前提で、給与など報酬を得ていた場合は認められません。

(2)金銭出資タイプ
 親の事業に関する借財を返済するなどして、事業の維持または発展に貢献した場合です。

(3)療養看護タイプ
 配偶者または子が、長期療養中の被相続人の看護に努めた場合などです。その結果、付添費用などの支出を免れ、被相続人の財産が維持されたような場合が該当します。超高齢化社会となり、介護保険が広く普及していますが、親族主体の介護・看護も依然として存在します。

【寄与分がある場合の遺産分割】
 寄与分が認められた場合の当該相続人の相続分は、以下の計算式で算出します。

 寄与分を認められた相続人の相続分 = (相続開始時の財産 - 寄与分)× 法定相続分 + 寄与分

 《例》
 相続人: 長女(寄与者)、二女
 相続財産: 3,000万円
 寄与分 : 1,000万円

 この場合、
 長女の相続分 = (3,000万円 - 1,000万円)× 1/2 + 1,000万円 = 2,000万円
 二女の相続分 =  1,000万円
 となります。

【寄与分がまとまらない場合】
 寄与分については、相続人全員で話し合いますが、相続人間で協議ができない、あるいは協議がまとまらない場合には、家庭裁判所の調停または審判によって決定されます。
 このように、寄与分については相続人との協議が必要となるため、やはり遺言書を作成しておくことが望ましいと言えるでしょう。

【相続開始後10年経過した場合の新ルール】
 2023年4月1日より、相続開始から10年が経過した後の遺産分割については、原則として寄与分を考慮せず、法定相続分または指定相続分によって画一的に行うこととなりました。
 これは、長期間が経過するうちに寄与分に関する証拠などがなくなり、遺産分割が困難になり、遺産が長期間放置されるケースを解消するための措置です。特別受益についても同様のルールが適用されます。

経過措置:
 このルールは、改正法の施行日前に開始した相続についても適用されますが、5年間の猶予期間が設けられています。
①施行時に相続開始から既に10年が経過している場合は、施行日から5年経過した時が基準となります。
②施行時から5年以内に相続開始から10年を経過するケースでは、施行日から5年経過した時が基準となります。

【特別の寄与とは】
 寄与分とよく似たものに、特別の寄与があります。これは、相続人ではない被相続人の親族が、無償で被相続人の療養看護その他の労務を提供し、被相続人の財産の維持または増加に特別の貢献をした場合に、その親族(特別寄与者)が相続人に対して、寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払いを請求できる制度です。たとえば、義理の父親を長年にわたり献身的に介護した嫁などが該当します。
 特別寄与料の支払いについて、当事者間で協議がまとまらない場合、または協議を行うことができない場合は、特別寄与者は家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができます。

権利行使の期間:
 特別寄与者は、相続の開始および相続人を知った時から6か月以内、または相続開始の時から1年以内に、特別寄与料を請求する必要があります。
 特別寄与においても、相続人との協議が必要となるため、やはり遺言で遺贈を検討するのが望ましいでしょう。

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